【全国事例】クマ対策に自動撮影カメラ(トレイルカメラ)はどう使われている?ー調査・出没対応ー
クマの出没が全国で相次ぐなか、赤外線センサーで動物の動きを自動的に感知し撮影する自動撮影カメラ(トレイルカメラ、センサーカメラ)を対策に取り入れる事例が増えています。この記事では、行政や研究機関が公表した資料をもとに、全国の活用事例を整理しました。
この記事でわかること
- 自動撮影カメラによる対策の特徴
- 自動撮影カメラの活用事例
クマ対策に活用される自動撮影カメラ
自動撮影カメラ(トレイルカメラ)は、赤外線センサーで周辺の温度変化を検知し、写真や動画を自動で撮影する機器です。ドローンは広範囲を一望できますが、自動撮影カメラは特定の地点に設置し、長期間にわたって定点観測が可能です。
クマ対策における自動撮影カメラの活用は、目的で見ると大きく「調査」「出没対応」の2つに分けられます。
自動撮影カメラでできること
調査 生息状況の把握(個体数推定)
誘引餌でクマを立ち上がらせて胸部白斑(月の輪模様)を撮影し、個体識別によって生息密度(生息個体数)を推定する調査手法として、国・都道府県で活用が進んでいます。

出没対応 検知・所在確認
通信機能とAI画像解析を組み合わせることで、撮影と同時にクマかどうかを自動判別し、出没状況を把握することができます。人がSDカードを定期回収して確認する従来の方法に比べると見回りを省力化できる点が特徴です。
また、目撃情報が相次いだ場所にカメラを設置し、対象のクマがまだ周辺に留まっているかを確認する使い方もあります。ドローンのように広範囲を能動的に探すことはできませんが、次の対応の判断材料として活用されています。

自動撮影カメラによるクマ対策の限界
自動撮影カメラも万能ではありません。国営越後丘陵公園(新潟県長岡市)の事例報告では、AIによる自動判別について、昼間(カラー画像)の判別正答率は2回中1回(50%)、夜間(赤外線白黒画像)は3回中1回(33%)と、夜間は精度が大きく低下する傾向が示されています。タヌキやアナグマなど中型哺乳類をクマと誤判定するケースが多いことも報告されています。
また、自動撮影カメラは設置した地点しか監視できないため、広範囲を一度に見わたすことはできません。特定の地点を長期間・低コストで見張り続けることが自動撮影カメラの強みであり、ドローンや人によるパトロールと組み合わせて使うのが現実的です。
全国事例
調査
センサーカメラによるツキノワグマの生息状況調査(はしっこプロジェクト2025)
四国に生息するツキノワグマは、剣山山系とその周辺地域にのみ生息し、環境省レッドリストで「絶滅のおそれのある地域個体群」とされています。林野庁四国森林管理局、環境省中国四国地方環境事務所、認定NPO法人四国自然史科学研究センターの3者は、2014年度からセンサーカメラ(無人撮影装置)を使った生息状況調査「はしっこプロジェクト」を連携して実施しています。誘引餌でクマを立ち上がらせ、胸部の白斑模様から個体識別する手法で、2025年度は25箇所59地点にカメラを設置しました。16箇所(徳島県10箇所、高知県6箇所)でツキノワグマを確認し、最低25頭を識別。当歳の幼獣を連れた親子も2組確認され、識別された25頭のうち4頭は新規の個体でした。別の調査で確認された2頭を合わせると、2025年度は27頭のツキノワグマが確認されたことになります。2026年度も調査は継続される予定です。
出典:林野庁四国森林管理局・環境省中国四国地方環境事務所・認定NPO法人四国自然史科学研究センター.2026.四国山地におけるツキノワグマ生息調査の結果について~「はしっこプロジェクト2025」~.林野庁四国森林管理局.2026年6月19日.https://www.rinya.maff.go.jp/shikoku/press/keikaku/260619.html(2026年7月20日閲覧).
自動撮影カメラを活用した大規模調査による生息数推定
新潟県では、従来の推定生息数(平成28年度データに基づく平均847頭)が、近年の出没状況や捕獲数の実態と乖離しているのではないかとの専門家の指摘を受け、令和3年度・令和4年度に自動撮影カメラを活用した大規模調査を実施しました。カメラの撮影頻度(RAI:Relative Abundance Index)を用いて生息密度を把握する手法で、令和5年12月末時点の県内ツキノワグマ推定生息数は1,118頭(中央値、95%信頼区間369頭~3,669頭)と算出されています。管理ユニット別では月山・朝日飯豊432頭、越後三国465頭、北アルプス218頭でした。この結果は「第三期新潟県ツキノワグマ管理計画」における現状の生息数として採用されています。令和8年度も自動撮影カメラ調査の実績を要件とする調査業務の入札公告が行われており、継続的なモニタリングが予定されています。
出典:新潟県.2022.第三期新潟県ツキノワグマ管理計画(令和6年10月一部変更).新潟県.2022年3月(2024年10月一部変更).https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/422282.pdf(2026年7月20日閲覧).
出没対応
通信機能付きセンサーカメラ+AI解析クラウドによる「クマ侵入対策システム」
新潟県長岡市にある国営越後丘陵公園では、クマ・イノシシ等大型哺乳類の出没による公園利用者の安全確保のため、自動撮影カメラを使った監視を行ってきました。令和3年度はSDカード回収式のセンサーカメラ(30箇所以上)で監視していましたが、7月20日の回収時に6月20日~7月7日撮影分としてクマを4箇所で計5回確認したため、7月21日から園内の一部区間を閉鎖。その後も撮影が続いたため回収頻度を週1回に上げて閉鎖を継続し、8月14日以降3週間痕跡がないことを確認したうえで9月5日に全面開放しました(一部閉鎖期間46日間)。この経験を踏まえ、令和4年度からデータ回収が不要な通信機能付きセンサーカメラを20台導入(7月に10台追加、計30台)。撮影画像はクラウドにアップロードされ、AIが動物種を自動判別し、クマと判別すると管理者へ自動でメール通知する体制に切り替えました。その結果、人件費は従来(月最大約100万円)から月最大約20万円まで、最大5分の1に削減され、クマ撮影後24時間以内に園内の一部区間を閉鎖するなど迅速な対応が可能になりました。一方でAI判別精度は、令和4年度の運用で昼間(カラー画像)2回中1回(50%)、夜間(赤外線白黒画像)3回中1回(33%)にとどまり、タヌキやアナグマを誤判定するケースも多く見られました。この結果を踏まえ、クマの出没がほとんど夜間であることが確認され、見通しの良い舗装済み園路は閉鎖対象外とするなど、公園の「クマ対策基準」の一部が見直されました。
出典:笹岡和幸・細井和生・安達久美.国営越後丘陵公園におけるデジタル技術を活用したクマ侵入対策システムの導入について.国土交通省北陸地方整備局 令和4年度技術研究発表会.https://www.hrr.mlit.go.jp/library/happyoukai/R4/a/a-04.pdf(2026年7月20日閲覧).
AIカメラによる出没の自動確認(「クマ出没情報」への記録)
富山市では、大野・東黒牧・東福沢・山田中村など複数地点にAIカメラを設置しており、住民からの目撃通報とは別に、カメラ自体が独立した発見源としてクマを確認しています。市が毎月公表している「クマ出没情報」には、令和7年10月だけでも複数件の「発見者:AIカメラ」による成獣確認の記録があり、10月14日0時00分、10月20日2時46分、10月29日2時11分など、深夜・未明の時間帯を含めて運用されていることが確認できます。人の目が届きにくい時間帯にも自動でクマの所在を捉えられる点は、住民からの目撃情報を補う仕組みとして機能しています。
出典:富山市.クマ出没情報(令和7年10月).富山市公式ウェブサイト.2025年11月2日.https://www.city.toyama.lg.jp/business/nourin/1010630/1010631/1016789/1017719.html(2026年7月20日閲覧).
基地局設置のAI搭載カメラによるクマ出没検知の実証実験
NTTドコモは2026年5月22日、北海道内の基地局2局(山の手の基地局、白川の基地局)に画像認識AIと連携した監視カメラを設置し、クマの出没をリアルタイムで検知する実証実験を開始しました。カメラ映像を低遅延な「docomo MEC」上で画像認識AIが解析し、昼夜を問わず安定して検知できる性能を目指すとしています。実証期間は同年11月30日までの予定で、結果は今後公表される見込みです。将来的には自治体向けの展開、出没位置のマッピング、関係機関への通知、威嚇音発報までを行う統合システムの実装を目指すとしています。なお、本取り組みは自治体の事業ではなくNTTドコモ主体の実証実験であり、設置基地局の所在市町村は公表資料に明記されていません。
出典:株式会社NTTドコモ.2026.基地局に設置したAI搭載カメラによるクマの出没検知システムの実証実験を開始.株式会社NTTドコモ(ニュースリリース).2026年5月22日.https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_260522_u1.pdf(2026年7月20日閲覧).
まとめ
自動撮影カメラによるクマ対策は、生息状況を把握する調査と、出没を検知して所在を確かめる出没対応の2つに整理できます。ドローンが「広い範囲を一度に見る」手段だとすれば、自動撮影カメラは「決まった地点を長く見張り続ける」手段であり、それぞれの得意分野を組み合わせることが、これからのクマ対策の鍵になりそうです。

