日本全国ではクマ類と列車の衝突事故が発生しています。クマ類と列車の衝突は早朝〜夜間に多く、山間部を走る普通列車で件数が多い傾向があり、発生すると地域交通に多大な影響をもたらします。本記事では、衝突事故の特徴や各鉄道会社ごとの具体的な事例、対策についてまとめました。なお、公表データが確認できた鉄道会社・支社の事例を掲載しています。

記事の内容

列車とクマとの事故事例について解説

クマ類と列車の衝突事故の特徴

 全国各地で発生したクマ類と列車の衝突事故について、鉄道会社の運行情報や報道資料(新聞・テレビ等)で収集し、衝突事故の特徴について記載した。公表事例のみであるため、すべての事故事例を収集できていない点については留意が必要です。

衝突時間

クマ類と列車の衝突事故 時間帯別件数

 クマ類と列車の衝突事故は早朝や夕方から夜間にかけて多く発生しています。クマは薄明薄暮性で、日出や日没前後に活動が活発になることで線路上に出没しやすくなります。また、早朝や夜間は運転士がクマを視認しにくいため、衝突を避けられないことも要因であると考えられます。

列車種別

 列車種別ごとでは、「普通列車」で最も事故件数が多い傾向にあります。普通列車は山間部の単線区間を走るケースが多いことから、クマとの遭遇頻度が高いことが考えられます。また、特急や新幹線は件数こそ少ないものの、事故発生時の影響規模が大きく、地域交通全体に波及する点が特徴です。

鉄道会社ごとの衝突事例

JR北海道

 JR北海道は2025年4月1日現在で北海道内に2,254.9kmの営業路線を擁し、1日あたり1,197本の列車を運行しています(JR北海道HP)。

鹿・熊による列車運行への影響件数について(JR北海道)をもとに当サイトが作成

 

 JR北海道のヒグマ発見・衝突件数は増加傾向であり、2023年度は過去最大の衝突件数であると報告されています(JR北海道,2024年)。路線別では、旭川エリアの宗谷線(旭川駅ー稚内駅)で特に事故件数が多い傾向です。

 輸送障害(衝突)件数も2018~2023年平均で11件発生しています。

※輸送障害:旅客列車に30分以上の遅延・運休列車に対し30分以内に後続列車で救済できなかったもの。

発生事例

JR北海道 ヒグマと列車の衝突事故 全事例一覧
3
掲載事例数
3
対象路線数
最大
4h
最大遅延時間
約30
最大影響人員(人)
路線 表示中:3
函館線 2025年10月18日 22:30頃
列車 普通列車
区間 二股駅 〜 長万部駅
影響 当該列車約15分遅延、翌日撤去作業により普通列車6本運休
👥 影響人員:約30人
石勝線 2025年8月19日 20:00頃
列車 とかち7号(帯広行き)
区間 新夕張駅 〜 占冠駅
影響 特急列車4本に遅れ、最大4時間の遅延
石勝線 2024年10月11日 8:30頃
列車 おおぞら1号(釧路行き)
区間 トマム駅 〜 新得駅
影響 新得〜釧路駅間 部分運休

※ 公表データが確認できた事例のみ掲載しています。実際の衝突件数はこれを上回ります。
※ JR北海道の2025年度ヒグマ衝突件数は56件(過去最多)、うち輸送障害18件(2025年11月19日時点)。
※ 最終更新:2026年1月 / 出典:各社プレスリリース・報道資料

JR東日本

JR東日本 ツキノワグマと列車の衝突事故 全事例一覧
4
掲載事例数
4
対象路線数
最大
1h
最大遅延時間
約50
最大影響人員(人)
路線 表示中:4
山形新幹線 東北エリア 2025年9月4日 10:00頃
列車 つばさ132号(東京行き)
区間 板谷駅(山形県米沢市)〜 庭坂駅(福島県福島市)
影響 車両点検のため約1時間運転見合わせ
秋田新幹線 東北エリア 2025年8月24日 11:29頃
列車 こまち16号(東京行き)
区間 赤渕駅 〜 雫石駅
影響 約20分遅延
上越線 関東エリア 2025年8月5日 8:15頃
列車 普通列車
区間 上牧駅 〜 水上駅
影響 約45分遅延
👥 影響人員:約50人
北陸新幹線 関東エリア 2021年5月9日 14:30頃
列車 はくたか565号(金沢行き)
区間 軽井沢駅(長野県)〜 佐久平駅(長野県)
影響 現場で車両点検、約25分運転見合わせ

※ 公表データが確認できた事例のみ掲載しています。実際の衝突件数はこれを上回ります。
※ 秋田支社のクマとの接触件数は2023年度に46件(ピーク)、2024年度は9件に減少。盛岡支社では2023年度に接触67件・目撃173件を記録。
※ 最終更新:2026年1月 / 出典:各社プレスリリース・報道資料

関東エリア

高崎支社

 高崎支社は、群馬県全域を中心に、新潟県南部および埼玉県北部の一部を営業範囲とする支社です。管轄路線には、上越線(高崎〜宮内)、信越本線(高崎〜横川)、吾妻線(渋川〜大前)、八高線(高麗川〜倉賀野)、両毛線(高崎〜小山)などの在来線に加え、上越新幹線(高崎〜越後湯沢)および北陸新幹線(高崎〜軽井沢)です。

 高崎支社によれば、2020年度の動物衝突件数は82件であるが、その大半を占めるのは上越線・八高線におけるシカであり、クマは7件(すべて上越線)記録されています。

 野生動物との衝突対策として、忌避音装置(犬の鳴き声・咆哮を組み合わせた警報音)や忌避剤散布(マリンスター)、青色LEDと音を併用した「害獣王」などが実施されています。

東北エリア

秋田支社

 秋田支社は、秋田県全域を中心に、青森県南部および岩手県北西部の一部を営業エリアとしています。管轄路線は、幹線である奥羽本線(新庄〜青森)、羽越本線(新津〜秋田)、田沢湖線(盛岡〜大曲)のほか、男鹿線、五能線(東能代〜川部)、花輪線(大館〜好摩)です。

 秋田支社によると、クマとの列車接触件数が2023年度に46件とピークを迎えたが、2024年度は9件と大幅に減少した 。発生件数は年度ごとの変動が大きく、特定の年度に集中する傾向がみられます。

 同支社は野生動物との衝突防止対策として、忌避剤の散布すを実施しています。2023年度には奥羽本線・羽後境~大張野間(約8km)、2024年度には田沢湖線・奥羽本線・羽越本線(約31km)で実施したところ、クマの目撃はあったものの、衝突は発生しませんでした。

盛岡支社

 盛岡支社は、岩手県全域および青森県・秋田県・宮城県の一部を営業エリアとし、東北本線・山田線・釜石線・大船渡線・田沢湖線・花輪線・北上線・八戸線・大湊線などを管轄しています

 盛岡支社によると、2023年度のクマとの接触・目撃件数は過去5年平均の約2倍に達し、接触67件・目撃173件を記録した。中でも花輪線での発生が突出しており、岩手県側30件、秋田県側56件に上る。これに伴い、花輪線や北上線では列車運転見合わせ4件、大湊線では車両損傷による運休1件が発生した。JRは自治体や猟友会と連携し、衝突個体の撤去を行うほか、音による威嚇(警笛)を試験的に導入している。

JR東海

JR東海 ツキノワグマと列車の衝突事故 全事例一覧
5
掲載年度数
54
5年間累計件数
21
最多件数(2025年度)
0
人的被害件数
路線 表示中:5

ℹ️ JR東海は個別事例の詳細を公表しておらず、年度別の件数のみ確認できています。路線は高山線・中央線の山間部が中心と報告されています(名古屋テレビ,2025-11-13)。

高山線・中央線 2025年度 11月13日現在
区間 山間部区間
21
前年比4倍・過去5年で最多
高山線・中央線 2024年度
区間 山間部区間
5
高山線・中央線 2023年度
区間 山間部区間
16
高山線・中央線 2022年度
区間 山間部区間
7
高山線・中央線 2021年度
区間 山間部区間
5

※ JR東海は個別事例の詳細を公表していないため、年度別件数のみ掲載しています。
※ 2025年度の件数は2025年11月13日時点の速報値です。
※ 最終更新:2026年1月 / 出典:名古屋テレビ(2025-11-13)

 クマと在来線の衝突事故は 2021年度は5回、2022年度は7回、2023年度は16回、2024年度は5回、2025年度は21回(11月13日現在)発生しています。高山線や中央線などの山間部で発生することが多く、これまでに人的被害は発生していません(名古屋テレビ,2025-11-13)。

衝突対策

 クマ類と列車の衝突を防ぐため、各鉄道会社では主に「忌避剤」「音響・光」「物理的侵入防止」「運行対応」「関係機関との連携」の5つのアプローチが実施されています。

忌避剤の散布

 線路脇への忌避剤散布は、クマ類を嗅覚で遠ざける手法です。JR東日本秋田支社では、2023年度に奥羽本線の羽後境〜大張野間(約8km)、2024年度には田沢湖線・奥羽本線・羽越本線の合計約31kmに拡大して実施しました。散布区間ではクマの目撃はあったものの衝突は発生しておらず、一定の効果が確認されています(JR東日本秋田支社,2025)。

音響・光による忌避

 聴覚・視覚でクマ類を刺激し線路への接近を防ぐ手法です。JR東日本高崎支社では、犬の鳴き声と咆哮を組み合わせた忌避音装置を導入しているほか、青色LEDと音を併用した「害獣王」を設置し、多感覚での侵入抑制を図っています(JR東日本高崎支社,2021)。JR東日本盛岡支社では、運転士による警笛を用いた音響威嚇を試験的に導入しています。

物理的な侵入防止

 フェンスの設置により、クマ類が物理的に線路へ侵入しにくくする手法です。JR北海道釧路支社では花咲線において別当賀駅〜落石駅間を中心に4,833mのエゾシカ侵入防止柵を設置しています。 エゾシカを主な対象とした柵ですが、ヒグマを含む大型野生動物全般の侵入抑制にも機能します。

参考文献

JR北海道

JR北海道.会社概要.https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/company/comtop.html(2025年11月1日確認).

鹿・熊による列車運行への影響件数について.JR北海道.2024-07-19,https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20240719_KO_deerbear.pdf?utm_source=chatgpt.com(2025年11月1日確認).

JR東日本

列車と動物の衝突回避に向けた取組みについて.JR東日本高崎支社.2021-06-04,https://www.jreast.co.jp/press/2021/takasaki/20210604_ta01.pdf(2025年11月13日確認).

列車と動物の接触等に対する対策について.JR東日本 秋田支社.2025-07-24,https://www.jreast.co.jp/akita/press/pdf_20250724_animal.pdf(2025年11月12日確認).

盛岡支社管内における熊の影響について.JR東日本 盛岡支社.2023-11-29,https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1732847283_1.pdf(2025年11月12日確認).

北陸新幹線が熊と衝突 軽井沢-佐久平、けが人なし.毎日新聞.2021-05-08.毎日新聞.2021-05-08,https://mainichi.jp/articles/20210508/k00/00m/040/084000c(確認日:2025年11月16日).

山形新幹線 クマとぶつかり一時運転見合わせ 乗客乗員けがなし.NHK.2025-09-04,NHK NEWS WEB,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250904/k10014912511000.html (2025-09-05閲覧).

JR東海

クマと列車の衝突事故 今年度は21回で前年比4倍、過去5年で最多 高山線・中央線の山間部【JR東海】.名古屋テレビ.2025-11-19,メーテレニュース,https://www.nagoyatv.com/news/index_amp.html?id=033029(2025-11-24確認).