日本国内のクマスプレーの誤射事例
クマスプレーは登山者の安全を守る非致死的な護身具ですが、不適切な保管や取り扱いによって誤噴射が起きると、周囲の人に目・喉の痛みをはじめとする健康被害をもたらします。国内では新幹線や大学・ロープウェイなどで実際に誤射事例が発生し、救急搬送や交通機関の遅延につながったケースもあります。本記事では、それらの事例を時系列で整理し、取り扱い上の注意点を解説します。
クマスプレーとは
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クマスプレーは、登山中などにクマと遭遇した際に身を守るための防御用具です。主成分は唐辛子由来のカプサイシンで、高濃度の刺激性液体を霧状に噴射します。噴霧は最大7〜10メートル届き、浴びたクマは目・鼻・喉への強烈な刺激によって退散します。銃器のように致命傷を与えるものではなく、「非致死的」な手段として位置づけられています。
クマスプレー誤噴射事例
クマスプレーは適切に使用すれば有効な護身具ですが、取り扱いを誤ると深刻な事故につながります。安全装置の未確認や不適切な収納状態での携行によって「暴発」や「誤射」が生じた場合、噴霧を浴びた周囲の人が目・鼻・喉に強い痛みを訴え、救急搬送に至るケースも少なくありません。国内では新幹線車内や山岳施設など、人が密集する場所での事故も確認されています。
日本国内
| 事例 | 発生日 | 場所 | 被害・影響 | 搬送者数 |
|---|---|---|---|---|
| H大学構内 | 2019年10月10日 | 札幌市 | 異臭騒ぎ、約100人が屋外退避 | 不明 |
|
東海道新幹線 (浜松駅) |
2023年12月2日 | 静岡県・浜松駅 | 5名が目・喉に痛みを訴え、上下線48本・約3.9万人に遅延(最大53分) | 2名 |
| 株式会社S | 2024年6月17日 |
社屋内 (詳細非公開) |
建物内への充満により消防へ通報 | 不明 |
|
摩耶ロープウェイ (星の駅) |
2025年1月2日 | 神戸市・摩耶山 | 乗客25人が下車、6名が体調不良を訴え(全員軽症) | 0名(軽症6名) |
※「搬送者数」は病院へ搬送された人数。軽症者・体調不良者は「被害・影響」欄に記載。
- 発生 19時頃、構内で異臭騒ぎが発生。約100人が屋外へ避難した。
- 原因 山岳部の学生が、ロッカーにしまう際に誤って噴射した可能性。
- 発生 19時15分、14号車内でクマ撃退スプレーが誤噴射。登山帰りとみられる男性がリュックを荷棚に載せた際、サイドポケットのスプレーが衝撃で誤作動した。
- 対応 非常停止ボタンが押され、全乗客がホームへ避難。女性5名が目・喉の痛みを訴え、20〜30代の2名が病院搬送(いずれも軽症)。
- 影響 上下線48本に最大53分の遅延が発生し、約39,000人に影響。当該列車は21時08分に回送として運転再開(110分遅発)。
- 送検 2024年1月11日、静岡県警が首都圏在住の男性を過失傷害容疑で書類送検。安全装置の未装着・飛散防止措置なしと判明。
- 結果 静岡地検浜松支部が男性を不起訴処分。理由は公表されず。
- 発生 15時頃、摩耶山「星の駅」でゴンドラに乗り込んだ25人が刺激臭を感知し、下車。
- 被害 6人が体調不良を訴えたが、いずれも軽症。
- 発生 18時35分頃、ホームで旅行中の男性(43歳)がリュックサックのサイドポケットに収納していたクマ撃退用スプレーが誤って噴射される。
- 被害 ホームにいた乗客8人が目や唇の痛みを訴えたが、いずれも軽症。救急車が出動したが病院への搬送者はなし。
- 影響 普通列車に34分の遅れが発生。
- 捜査 香川県警丸亀署が、スプレーが周囲の人に当たって噴射された可能性もあるとみて、当時の状況を調査。
海外
- 発生 午後2時45分頃、コンコースCで「不快なにおい」の通報。空港運営局と公安局が乗客・従業員をコンコース外へ避難させた。消防が「呼吸困難を引き起こす空中飛散物」として出動し、緊急対策本部を立ち上げ。
- 経緯 乗客がTSAの保安検査をすり抜けたクマスプレーを、チェックポイント通過後にコンコースCのゴミ箱へ廃棄。その後、清掃員がゴミ箱を漁った際に誤って噴射した。1,500台以上の防犯カメラ映像の解析により経緯が判明。
- 当初の混乱 消防による初期の化学サンプル分析では、原因物質はラッカー等に使われる溶剤「ブトキシエチルアセテート」と誤判定。数日後の調査でクマスプレーと確定した。
- TSA見解 「乗客の機内持ち込み手荷物の保安検査でクマスプレーを見落とした」と発表。再発防止策の検討を表明。
クマスプレー誤使用事例
- 発生 9時頃、ゴミとして出されていたクマスプレーを発見。威力確認のため微量を噴射したところ、想定以上の威力であった。
- 拡大 換気を行ったため問題ないと判断したが、スプレーの成分が建物内に充満。その後、建物内で異常を感じた従業員が消防へ通報。
- 発生 16時過ぎ、札幌市西区宮の森4条11丁目付近の三角山登山道で、部活仲間の男女6人が登山中にクマ撃退用スプレーを噴射。クマに遭遇したためではなく、試しに使用したところ事故となった。
- 被害 10代の女性2人・男性1人の計3人がスプレーを浴び「目が痛くて動けない」と消防に通報。3人とも意識はあり重篤ではなかったが、病院へ搬送された。
クマスプレーの誤射を防ぐために
クマスプレーは適切に携行・管理すれば安全に使用できる用具です。誤射や暴発の多くは、安全装置の確認不足や不適切な収納方法に起因しており、正しい知識と手順によって防ぐことができる。
携行前の確認事項
クマスプレーを携行する前に、以下の点を必ず確認する。
安全装置の装着確認
クマスプレーには、噴射レバーの誤作動を防ぐための安全装置(セーフティクリップ)が設けられている。東海道新幹線での事例では、安全装置が正しく装着されていなかったことが誤噴射の直接的な原因となった。携行前に安全装置が確実に固定されていることを目視で確認する。
スプレー本体の状態確認
スプレー本体に亀裂や変形、さびがないかを確認する。また、有効期限(一般的に製造から4年)を確認し、期限切れのものは使用しない。期限切れのスプレーは噴射圧力が低下している場合があるほか、廃棄時にも注意が必要です。
正しい収納・携行方法
専用ホルスターを使用する
クマスプレーはリュックのサイドポケットや内部への収納を避け、専用のホルスターを用いてベルトやショルダーハーネスに装着することが推奨される。専用ホルスターは衝撃による誤作動を防ぐとともに、緊急時に素早く取り出すことを可能にする。
やむを得ずリュックに収納する場合は、スプレー全体を厚手のビニール袋で覆い、噴射口が他の荷物に接触しないよう固定する。サイドポケットへの収納は外部からの圧力を受けやすいため、特に注意が必要です。
公共交通機関を利用する際の注意
公共交通機関(鉄道・バス・航空機など)を利用する際は、クマスプレーの取り扱いに特段の注意が必要です。
航空機への持ち込みは原則禁止
航空機への持ち込みおよび預け荷物への混入は、国内外の航空法規により原則として禁止されています。登山に航空機を利用する場合は、スプレーを現地でレンタルするか、宅配便を利用する必要がある。
鉄道・バスの利用時
鉄道やバスを利用する際は、スプレーを手荷物として車内に持ち込む場合、安全装置の装着確認に加え、スプレー全体をビニール袋などで二重に梱包することが望ましい。荷棚への収納時は衝撃が加わりやすいため、スプレーが他の荷物と直接接触しないよう注意する。事業者によって危険物の持ち込みルールが異なる場合があるため、事前に確認することを推奨する。
参考文献
H大学構内(札幌市)
大学で異臭騒ぎ…熊よけスプレーで?.日本テレビ.2019-10-10,日テレNEWS NNN,https://news.ntv.co.jp/category/society/513482(2025-09-01確認).
東海道新幹線(浜松駅)
東海道旅客鉄道労働組合(JR東海ユニオン)(2024).「東海道新幹線 豊橋駅における不審物対応及び浜松駅における熊撃退スプレーの誤噴射対応」に関する申し入れについて議論を展開!.ユニオン新幹線業務部情報,第783号.
新幹線車内でクマ撃退用スプレーが噴射か…浜松駅で緊急停止、5人に目や喉の痛み.読売新聞.2023-12-02,読売新聞オンライン,https://www.yomiuri.co.jp/national/20231202-OYT1T50186/(2025-09-01確認).
新幹線でクマ撃退スプレー誤噴射、過失傷害の疑いで書類送検…安全装置を正しく取り付けず.読売新聞.2024-01-16,読売新聞オンライン,https://www.yomiuri.co.jp/national/20240116-OYT1T50146/(2025-09-01確認).
新幹線車内でクマ撃退用スプレー誤噴射…書類送検された男性を不起訴処分 静岡地検浜松支部.静岡朝日テレビ.2024-01-31,LOOK,https://look.satv.co.jp/content_news/incident/31437(2025-09-01確認).
株式会社S
6月17日の事案に関するお詫びと経緯について.株式会社S,2024-06-21,https://www.sanjoh.ne.jp/information/2218/(2025-09-01確認).
摩耶ロープウェイ(神戸市)
摩耶ロープウェーにおける異臭について.株式会社こうべ未来機構.2025-01-02,https://www.kfcc.co.jp/archives/1698(2025-09-01確認).
JR多度津駅
駅ホームでクマ用スプレー噴射、乗客8人が目の痛みなど訴え…リュック横ポケットから何らかのはずみで.読売新聞.2026−05-06,https://www.yomiuri.co.jp/national/20260506-GYT1T00042/(2026−05-06確認).
ナッシュビル国際空港
Bear spray ‘missed’ during TSA screening caused evacuation in part of Nashville Airport: officials.The Hill.2023−04-20,https://thehill.com/homenews/3960010-bear-spray-missed-during-tsa-screening-caused-evacuation-in-part-of-nashville-airport-officials/(2026−05-19確認).

